読んで良かった投資に関する本のまとめ
特段ものすごい金融資産を持っているわけでも、際立って良い成果を残しているわけではないけれど、読んで面白かった投資に関する本をまとめる。
こういうのをまとめておくことで、後で自分で振り返ることもできるし、以前は誰とかどういう考えに影響されていたかわかり、そこと現在の自分を比較することもできるはず。
バリュー投資アイデアマニュアル
この本の良さは章のタイトルがバリュー投資の中での手法の名前になっていることで、個々の手法はどういう着眼点に基づき、どういうギャップを突いて差益を出そうとしているのかを説明してくれているところだ。
自分がバリュー投資家だと思う人間は、選んだ銘柄に対して、この本に出てくるどれかの投資手法が当てはまるかどうかを考えると、自分の考えはどういうものなのか整理できるし、後でその投資判断が誤っていたときにどういう間違え方だったのか判断しやすくなる。
ジョッキー株(CEOなどの経営陣が優秀で、業界が市場で判断されているより利益が出せる株、あるいは優秀であると市場に判断されているから値が高くなる株)だと判断したが、別にCEOが優秀ではなかった、あるいは既にその事情は織り込み済みであったなど。
この通りにやったらうまくいく、という本ではないが自分の戦略上の立ち位置の整理に役立つし、持っていて都度参照する辞書や参考書的な使い方ができる本ではないだろうか。
バフェットの株主総会
この本の面白さは、大抵のウォーレン・バフェットに関する本では、彼の投資哲学と銘柄選択術に対する賛美と「それを真似しようぜ!」というポジティブなメッセージしか発信されていないところとの対比にある。彼の会社の株主総会の人種比率の偏りや、買収した子会社が現金を取り上げられていなかったらどうなったのか考える余地があることを示唆していたり、能力主義を標榜しながら買収した会社は、創業者の家族が一番事情がわかっているからと息子に継がせたりする。そういった、違和感のある部分に触れている。
投資に関する業績がすごいことに関しては異論はない、でも言っていることとやっていることが違うことはあり、それが良いのか悪いのかを判断する必要はある。ということを思い出させてくれる本である。
この本自体を読んでも投資自体の参考にはならないと思うが、面白い視点だと思ったのと選んでない選択肢の結果は見えないということは投資にもつながる(無理やりだ)と思ったので挙げた。
ピーター・リンチの株の法則
マゼランファンドについての話が載っているのだが、チームビルディングの本として捉えるのも面白い記述が結構出てくる。
当時のマゼランファンドでは短期的な目標管理や上司によるマイクロマネジメント、意見や検討の否定などがされなかったと書いてある。
自分で考えたロジックに基づいて投資を行ってもそれに対してケチをつける人間がいなかったということだ。
こういったマネジメントをしないというやり方が、保守的な銘柄選択ではなく自由に銘柄選択するモチベーションを産み、それがピーター・リンチの稀有な才能を発揮しうる土壌となったと考えられる。
全く逆の話が「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」で出てきていて、超短期的な目標管理がなされていて超ショートタームで個人の仕事ぶりが評価されてクビにされたりする。こういう状況下だと「失敗の責任を取らなくてもよさそうな銘柄」に手を出すことになる。
こういった、スパンを短く取ることによる欠点など構造上の問題についても考えられて面白い。
投資本としてはバフェットの本などと、そんなに大きく違うことが書いてあるわけではない。
ただ、あまり働きすぎると人生の目的を見失うよと書いてあったりして、バフェットより「人間」だなと感じられて個人的には好感が持てる。
また、失敗の許容量に応じて冒険的な銘柄選択を十分に調べた上で行えば、結果的にうまくいくこともあると明るい気持ちになれる。
行動科学と投資
人間の意思決定に関する誤謬や誤解、人間の生理作用が及ぼす意思決定への影響が株式投資に対しても影響してくるという内容の本。
例えば、お腹が減っている時はリスクの高い意思決定をしやすくなる。お腹が空いているというのは、人間にとってはヤバい状況なので多少リスクを冒してでも食べ物を得なければいけない。
なので、リスクが高くてもリターンが大きい方を選択する選好になってしまったりする。
など、肉体が意思決定を主導する話がまさか株の本で出てくるとは思っていなかったので興味深く読めた。生理的な働きが大きく判断に影響するので、よく食べてよく寝たほうが投資成績は良くなるはずだよ。という学びを得られる。
完全なる投資家の頭の中
バフェットではなく、マンガーに力点を置いた本。マンガーのバークシャーハサウェイの株主総会での発言などから、彼の投資スタイルや投資についての考え方を書いた本。
バフェットからの手紙、や他のバフェット関連の本を読んでいればそんなにそれらと違うことが書いているわけではない。
なぜバフェットがしけもく投資から価値のある会社をそこそこの値段で買う投資へと移行していったかや、投資にどういう基準(正味割引現在価値)を持っているかなど 他のバフェット本でも書いてあることがマンガーの語録を引用しつつ解説されている。
読み物としてそこそこ面白いのと、バフェットよりマンガーの方が好きな方は読むといいかも。
ただ、バフェットよりマンガーが好きと言えるような人には書いてある内容はもう既に知っている内容ではありそう。
あなたのお金と投資脳の秘密
行動科学と投資に似ていて、行動経済学や人間の生物としての仕組みから発生してしまう投資への不都合について書いてある。
動物への脅威から守られるために、即座に反応できるようになっていることが却って投資での過剰反応を引き起こしたり、パターンがあるものに対して予測してしまうメカニズムから、意味のないものにパターンを見出してしまったりする。
また、長期で上がり調子の相場であるときに下落すると、短期的に上がり相場であったときの下落よりも同じ損失額でもショックが大きくなるなどなど
人間というシステムと投資活動との齟齬みたいなものについて書かれていて、しかもそれが実感と一致する面があるので面白い。
とても面白い本なので、チャートが猫の背中に見えたり飛ぶ翼に見えたり、ゴールデンクロスに見えたりするときに買ったほうがいい一冊である。
まぐれ
何でもかんでも投資と直接結びつけては良くないのだが、参考にできるところもある本である。
そもそもマクロ環境がいいと、自分の成績が上がる。だが、それを自分の判断・戦略が良かったと勘違いしてしまうよねという話。
ファンド自体上手くいかないものは無くなるのだから、上手くいっているように見えるものだけがそもそも取引の対象になっていて、お金を入れた後にうまくいくかどうかはまた別の話である。など、認知の誤謬の話も面白い。(同じ著者の他の本にも同様の内容が含まれる)
滅多に起きない(と思っている)こと、によって利益や自分のとっているポジション自体が吹っ飛ぶ恐れがある状態でも、その崩壊が起きるまでの間に利益を少しずつ安定的に重ねられる場合、そのポジションが絶対的に正しいものだと勘違いしてしまうという指摘などが特に面白い。
私としては仮想通貨を利用したポンジスキームは一見上手くいっているが初めから破綻が組み込まれていて、ハマっている人たちは指摘されている誤謬にはまっているように感じられる。
人間の認知と、統計に関する誤謬に関しての本である。ほんのり差別的な言動が気にかかることはあるが、同じ著者の他の本も含めて参考になるものが多い。
「ブラックスワン」・「身銭を切れ」など他の本でも、著者の主張としては「極端なことが起きた時に利益が出るポジションを取れ」という言葉にまとめられる。
個別の本に触れると、著者自体が持っている主流の投資手法に対するコンプレックスというか複雑な気持ちみたいなのも感じられて面白い。
私の株式投資必勝法
邱永漢が書いたエッセイである。1971年に出た本である。これは後年に出たベスト版(それでも1991年初版)で読んだ。
1971年なので、バブル崩壊前の常識であるからバブルが崩壊してから物心がついた自分のような人間にはびっくりするようなことがたくさん書いてある。
当時、株の利回りが預金利子より低くなっているのを銀行屋や保険屋たちが「株価は行き過ぎ、常識では考えられない」と口を揃えて叫んでいたらしいがそれに反して株価はどんどん上昇。 邱永漢自体も
過去の常識では当今の今の株価を説明できないということであって、したがって、常識と思われていたものが実は常識でなくなってしまった、ということにほかならない。 (中略) 愚か者のひとつ覚えのように、「利回りにかえれ」と、かえらぬ夢を追って見たりするのである。 邱永漢著 私の株式投資必勝法P133 から引用
と述べていて、この流れの味方をしている。今から振り返ると、この時点から20年後までは確かにこのような物の見方が「常識」であったと言えるかもしれない。しかし、また流れは変わってあれはバブルでおかしかったのだと誰もが分かっていたことのように振り返られることになっているのが今現在である。
人の価値観みたいなものが、時代の流れ、上昇気流に乗っていた当時の日本と今の停滞感が30年漂い続ける日本とで全然変わってしまっているのだ。こういうのが面白い。
邱永漢は、株が1/3くらいに下がったりするようなこともあるという兜町の古老の考え方を否定していて、それは戦争のような不測の事態が大きく国を揺すぶった時のみにおこるとしている。
しかし、2000年に入ってからでみてもITバブル崩壊、リーマンショックやコロナショックなど少なくとも3回は大幅な下落が起きている。(私は邱永漢の発言の「国をゆすぶった時のみ起きる」という言い方をとても頻度が低いという意味で捉えている)
「起きる確率が低いことでも、長いスパンで観測すればそれは結構高い確率で起きうる」というナシム・ニコラス・タレブの考え方の逆である。邱永漢は株で吹っ飛んだだろうか。
邱永漢の投資スタイルは、大きな経済の動きから伸びそうな業界を先読みするスタイルだった。(例:高度経済成長期に入った日本がトヨタなどの車が買えるようになった、車が需要されればそれを走らせる道がいる。道路建設の株を買う。といった感じ)
長期投資スタイルの人ならば、参考になるところがありそう。過去の日本の今とは違う上り調子の雰囲気も感じられて中々面白い。少し前の中国はこういう雰囲気だったのだろうか。