タイトルについて
「投資の公理」という邦題になっているが、前書きの中で市場において「公理」は間違っていると書いてある。
モデル化や予測を試みているシステムに人間の活動が介在するあらゆる領域では、公理的な思考は本質的に危険である。 「投資の公理」P.15より
なのだが、タイトルは「投資の公理」となっており、訳者?出版社?は何を思ってこのタイトルにしたのだろうという感じがする。
原題は「10½ Lessons from Experience: Perspectives on Fund Management」となっており、公理ではないのではないのだろうかと思う。
しかも、章立ての中では教訓1、教訓2となっており「投資における教訓」とかでいいのではないかとも思う。(それだと売れなさそうだからだろうか。)
ちょっとモヤモヤする。
大まかな内容、作者はどういう人か
イギリスの著名な資産運用会社マーシャル・ウェイスの会長であるポール・マーシャルさんの書いた本の邦訳である。
資産運用会社の経営者が書いているので、市場で長く生き残ってきた人間の経験則であり、一読の価値はあると思った。
11の章から成り立っていて、それぞれが1つずつ金融市場で生き残るための教訓から成り立っている。
- 市場は非効率である
- 人間は非合理である
- 投資スキルは再現可能なもので、持続力がある
- 市場は短期的には投票機だが、長期的には計量器である
- 変化を探せ
- ポートフォリオ構築で重要なことは集中と分散である
- ショートとロングは違う
- 機械は人間を打ち負かすが、機械と人間の組み合わせは機械を打ち負かす
- リスク管理 不確実性に配慮せよ
- サイズこそが重要
- ほとんどの資産運用のキャリアは失敗に終わる
個人的には、10章の「サイズこそが重要」は面白かった。ファンドサイズによって動きが鈍ってパフォーマンスが落ちたりする話なのだが
個人投資家にはあまり関係ない話ではあるが、100万円の資金を全て1つの銘柄に突っ込むときの機動性と多数の銘柄に分散して投資している場合の決算時等の情報処理の負荷で考えると少しはわかった気になるかもしれない。(本で触れているのはリターンの話なのでこの話と違うが)
本の気になったポイント
他の本を元にしたアイデアのパッチワーク的な部分が大きく、オリジナルの経験に依らない意見もあるため、投資本ではないがアイデアの参照元の本を読む方がいいのでは?と言う感じがする。
例えば9章のリスク管理のところなんかはナシーム・ニコラス・タレブの本から引っ張ってきた主張であり、きちんと知りたいのであれば本家であるタレブの本を読む方がおそらくは良いだろう。
他にも2章の非合理性の部分は、行動科学・認知心理学の分野であり投資とからめた本ならば「行動科学と投資」、そうでないならばダニエルカーネマンの「ファスト&スロー」などを読んだ方がいいかもしれない。
それでも5章や10章、11章などは読んでいて面白いと思った。資産運用でキャリアを築いた人間が、資産運用のキャリアがほとんど失敗で終わると断言しているのはとても重いことだと辛い気持ちになった。
「自らがポジションを保有するのではなく、ポジションが自らを保有する」という言葉は、非常に重みがある。
また「常に地に足をつけ、自分や他人が思っているほど優れても劣っているわけでもないということを肝に銘じるべき」という言葉も非常に含蓄がある。
ポートフォリオの上がり下がりに感情を流されないということが、やはり一番重要なのだと負けている私も兜の緒を締め直すのであった。
他の投資本との比較
投資本として、脳汁が出る内容であるかといえばそれはNOである。
この本を読んで儲けるぞ!と思っている人は手を出さない方がいいかもしれない。
どちらかといえば、「守り」を強くするために読む本ではないかと感じる。
類似と言い切れはしないが私が読んできた中では「あなたのお金と投資脳の秘密」や「まぐれ」など、投資に自信過剰になっている時に読むべき本と近い。
投資パフォーマンスを上げたくて投資本を漁っている人にはオススメするほどではないが、利益が出てしまって仕方がなく調子付いてしまっている人は一読する価値がある。